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声 |
――ああ。
これが、終わりか。
あっけないものだ。
殴られたのは三千年ぶりだった……かもしれない。
あれは、誰にだったか。
「人は、一番大事なことは決して忘れないものよ!」
あれは、誰だったか。
……そうだ。
忘れては、いない。
君を忘れたことなど、一度もなかった。
それがどんなに……どんなに、つらくても。
どうしても、忘れることができなかった。
それからの私の全ては、君を忘れるためにあったのに、それでも、忘れることができなかったのだ。
三千年前、私を殴ったのは、そうだ、君だ。
あの痛みを私はまだ覚えている。
今でもよみがえる。あの痛みは……こんなものではなかったよ。
ばかばかしい。
こんな痛みで死ねるのなら……なぜ、あのとき君は私を連れていってくれなかった?
なぜ私を許してくれなかったのだ。
私は、君との約束を果たせただろうか。
もう少しで君を本当に忘れたかもしれないほど、そのためだけに生きてきたけれど。
でも、君を満足させることはできただろうか。
できなかったような気がするよ。
そう、あの少女はずいぶん怒っていた。
あのときの、君のように。
約束は果たせなくとも……全てをあの少年に引き渡すことならできたと思う。
それで、許してくれるかい?
もし君がエンプレスであったなら、私はこうはならなかったとは思わないか。
いや……そうだね。
君はそんなことを望まない。
だが、私だって望んではいなかったのだよ。
君が命じたからこそ、私はエンペラーとなった。他に、理由などあるものか。
三千年を一人で生きる理由など。
もう……許してくれるんだね?
わかっているよ、君の声が聞こえたのだから。
「人は、一番大事なことは決して忘れないものよ!」
ああ、僕の旅が終わる。
三千年の一人旅が。
よい出来ではなかった。君の望みどおりにはきっとできなかった。
だから、ほめてくれ、なんて言わない。
ただ、ただ、僕の名を呼んで。
君だけが知る、僕の本当の名を。
――君の、あの声で。

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